東野圭吾『クスノキの番人』の感想 | 思いを伝える感動作!
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東野圭吾さんの『クスノキの番人』を読んだ感想です。
「思いを伝えること」
「生きること」
について、考えさせられた作品でした。
最初のうちは、「うーん、東野さんの作品にしてはイマイチかなー」と思ってたんですが、どんどん物語にハマっていって、気づいたら一気に読み切ってました。東野さん、本当にすいませんでした(_ _;)
東野圭吾さんの作品と言えば、ミステリのイメージが強い方も多いと思いますが、 今回の作品はファンタジー。
物語が進むうちに、どんどん引き込まれていきました。
普段ファンタジー作品をあまり読まない方にも、おすすめできる1冊です!
- クスノキの不思議な力とは
- 『クスノキの番人』とは
- この本を読んで感じたこと
を紹介していきたいと思います。
※ネタバレを含みますのでご注意ください。
その木に祈れば、願いが叶うと言われているクスノキ。
その番人を任された青年と、クスノキのもとへ祈念に訪れる人々の織りなす物語。
不当な理由で職場を解雇され、その腹いせに罪を犯し逮捕されてしまった玲斗。
同情を買おうと取調官に訴えるが、その甲斐もなく送検、起訴を待つ身となってしまった。そこへ突然弁護士が現れる。依頼人の命令を聞くなら釈放してくれるというのだ。
依頼人に心当たりはないが、このままでは間違いなく刑務所だ。そこで賭けに出た玲斗は従うことに。依頼人の待つ場所へ向かうと、年配の女性が待っていた。千舟と名乗るその女性は驚くことに伯母でもあるというのだ。あまり褒められた生き方をせず、将来の展望もないと言う玲斗に彼女が命令をする。「あなたにしてもらいたいこと—それはクスノキの番人です」と。
出典:amazon
クスノキの持つ不思議な力とは
月郷神社のクスノキ
「その中に入って願い事をすれば、叶う」といわれている月郷神社のクスノキ。一部のマニアには、パワースポットとしても人気だったりします。
でも一般には知られていないことがあります。それは、夜になるとクスノキは不思議な力を発するということ。
『思いを預ける』『思いを受け取る』
クスノキの不思議な力とは、人の心の中の思いを記憶し、それを発することができるというもの。
物語の中で、心の中の思い=『念』と呼ばれています。
- 『預念』:クスノキに伝えたい思いのすべてを預けること
- 『受念』:クスノキの中に入り、その思いを受け取ること
言葉で表現できない、伝えきれない思いってありますよね。その思いすべてをクスノキが預かって、伝えてくれるのです(思いを受け取れる相手は限られていますが)。
実際にこのクスノキがあったら、うまく表現できない思いも伝えられて便利だなーって僕も最初は思っていました。
でもクスノキに念を預けるデメリットもありました。
思いをすべて預けることのデメリット
自分が頭の中で考えていることが、相手に全部伝わってしまったとしたら…
クスノキは雑念や邪念など、伝えたくない思いも一緒に記憶し、相手に伝えてしまいます。
物語の中にも、「預念」することをためらってしまう父親の姿が描かれています。
なぜなら、自分の子どもが念を受け取ったとき、自分のことを今まで通りに受け入れてくれるか、ということを考えてしまったから。
誰でも人に知られたくない『思い』はあると思います。クスノキに思いを預けることは相当の覚悟がいるのではないでしょうか。
僕も「クスノキに思いを預けることができるだろうか?」と想像してみました。
・・・ちょっと無理でした。
『クスノキの番人』とは
「クスノキの番人」って結局なんだろう?読み終わったあとでも、考えてしまいます。
- 祈念に訪れる人のために、段取りを整える
- クスノキの本当の力を、世間に知られないようにする
でもクスノキの番人として、いちばん大切な役割、それは『人の思いをつなげる』ことだと思います。
主人公の玲斗も、『クスノキの番人』という役割を通じて成長していくのですが、その成長の過程には、『思いをつなげよう』とする意思がありました。
「念は人の生 触れても触れさせてもならぬ」
「クスノキの番人心得」の、最初のページに記されている言葉です。人の思いに深く踏み込んではいけないということでしょう。
しかし祈念に訪れた人の人生に、時には踏み込んでいく玲斗。
クスノキの番人の役割が「思いをつなげる」ことだとするならば、それもアリなんじゃないでしょうか。
『人を生かす』物語
ミステリでは、殺人の動機やトリックなどがフォーカスされますが、今回の作品は『人を生かす物語』、生きることの大切さを教えてくれました。
「生まれるべきでなかった」と思っている玲斗
「今の自分には生きる価値がない」と思っている千舟
お互いの思いをぶつけます。
「あなたに尋ねます。私は、もう少し生きていてもいいのかしら。その価値があるのでしょうか。」
今の自分を受け入れることが出来ずにいた、千舟の言葉です。
その千舟に対する玲斗の思いには、胸が熱くなりました。
最後に
現実には不思議な力を持つクスノキはありません。物語の中でも、思いを受け取れない人もいました。
じゃあ、どうすればいいの?
「こうしたら思いを伝えることができるよ」
「こうしたら思いを受け取ることができるよ」
東野さんはこの作品の中で、伝えたかったんじゃないかな、と思います。
僕がこの本を読んで感じた、思いを伝えることの大切さ。
『クスノキの番人』ぜひ読んでいただきたい1冊です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。